2019年12月、私は中国四川省の成都市に滞在していました。
成都は都会でして、H&Mやユニクロが入る大型モールがあったり、イトーヨーカドーがあったりし、また地下鉄をはじめとした交通インフラも整っており、非常に住みやすい都市です。
都会である一方で、路地裏に入ると都会の喧騒が消え去り、ゆったりとしたリズムが流れています。
そんな成都は、三国志で有名な劉備が建国した蜀の都市でもあり、三国志の聖地としても知られています。
ここには、劉備や諸葛亮など蜀の英雄を祀る武侯祠(ぶこうし)という霊廟があり、連日、中国各地からの観光客で賑わっています。
さて、私も思い出作りのためにこの霊廟を訪れたのですが、その道中で何やら中華らしからぬ雰囲気を持つ脇道を発見しました。
好奇心に駆られて、霊廟訪問前にこの脇道を探索したのですが、その場所はまるでチベットの拉薩(ラサ)にいるかのような気分にさせてくれました(実際には拉薩に訪れたことはありませんが・・)。
後日、成都に長く住む中国人の友人にこの話をしたところ、武侯祠の近くに*藏族一条街(チベット人街)または武侯祠横街と地元の人に呼ばれる独特な地区があると聞き、その友人と再度その地域を訪れることにしました。
今回このブログ記事では、四川省成都市の武侯祠付近にあるチベット人街について記載します。
*藏族とはチベット族のこと
チベット人街について
地下鉄3号線の高升桥駅で下車し、武侯祠を目指して歩いていくと、通常の中華のイメージとは全く異なる異国情緒あふれる脇道に出会います。
このチベット人街と呼ばれる地区には、チベット仏教関連の用具や、チベット族の衣服、チベットの食べ物を扱う店が多数あり、店の看板にはチベット文字が見られます。
そう、ここはチベット族の方々が沢山住んでいる地域なのです。
この地区には西南民族大学やチベット自治区成都駐在事務所など、この地区特有の施設も点在しています。
私が友人と再びここを訪れた時間帯は夕食時でして、以前訪問した昼間とは異なり、多くの露店が出ていました。
これらの露店では、靴、チベット風の雑貨、数珠などの仏教用具を販売していました。
この通りを行き交う人々の多くは漢民族というよりも、その容姿から見てチベットの方々が多いように思われました。
ちなみにこの地区は、別名チベットの後庭とも呼ばれているみたいです。
ただ具体的に、彼らがいつ頃この地区に定住し、コミュニティを形成し始めたのかについては、はっきりとした情報はありませんでした。
四川省はチベットと隣接しているという地理的な近接性や、またチベットに比べて成都は温暖であるという、その気候的な要因で移住してきているのかもしれません。
その辺のお店で聞いた話によると、チベットで裕福な人たちが成都で家を購入し、定住するケースがよくあるそうです。
チベット料理を食す
ともあれ、腹が減ったので、適当に見つけたレストランでチベット料理を楽しむことにしました。
訪れたのは曼茶藏餐(Man Cha Zang Can)というレストランです。
レビューを確認せず、目の前にあったこの店に入りました。
曼茶は恐らく曼荼羅(まんだら)に由来しているのでしょうか。
藏餐はチベット料理を意味します。
店内はこじんまりとしていましたが、温かみのある内装で、チベットの風情を感じました。
一緒に訪れた中国人の友人はチベットを2度訪れた経験があり、彼のおすすめに従って、チベットで日常的に食されている料理を選びました。
1. 酥油茶(Su You Cha)- バター茶
まず出てきたのは酥油茶(Su You Cha)、いわゆるバター茶です。
このバター茶はチベット地方や、ヒマラヤ地域で日常的に飲まれている飲み物です。
別名、ポー茶とも呼ばれています。
このお茶は、茶葉を長時間煮込んで濃い味にしたものに、ヤクのバターと塩を加え、よく撹拌して作られます。
乾燥した気候において、水分、脂肪分、熱量、塩分を効率的に補給し、暖を取るのに役立つため、高地のチベットでは重宝されているそうです。
ただし、その味は若干塩辛く、独特な風味があります。
飲み物というよりは、みそ汁のような料理の感覚を受けるため、好みが分かれるかもしれません。
ちなみに酥油はヤクのバターを指します。
2. シャパレ(Sha phaley)
さてバター茶を楽しんでいると、次に登場したのが、こちらシャパレ(Sha phaley)というチベットのミートパイです。
チベット料理の中でも人気があり、製法は様々あるみたいですが、基本的にはパン生地にヤクの挽き肉やキャベツ、ニンジン、タマネギなどの野菜を包んで揚げたものです。
人によっては、スパイスやハーブも味付けに使用するとのこと。
シャパレを味わうと、まず感じられたのは外皮のサクサクとした食感でした。
パン生地は金色に揚げられており、一口かじるたびに心地よい「サクッ」という音がしました。
生地は適度な厚みがあり、噛み応えが感じられます。
中の肉と野菜は塩やコショウで適度に味付けされ、それぞれの素材の味が生きていました。
スパイスは控えめで、肉の味をうまく引き立てており、これは飽きることなく何個も食べたくなるほど美味しかったです。
全体として、シャパレは非常に満足感のある料理でした。
暖かく揚げたての状態で食べると、その美味しさが一層引き立つと感じました。
シャパレはチベットで軽食としてスナック感覚で食べられるそうですが、かなり腹持ちが良かったです。
3. 料理名を忘れました・・・
さて、お次に出てきた料理はこちらの料理なのですが・・・
すみません、肝心の料理名を忘れてしまいました・・・。
もし誰かご存知の方がいらっしゃれば、教えていただけると幸いです!
この料理の味わいは、なかなか言葉で表現するのが難しい独特なものでした。
食感は非常に弾力があり、噛むほどに味わいが出てきます。
硬すぎず、柔らかすぎず、ちょうど良いバランスを持っていました。
味は独特で、酸っぱさと甘さの両方を感じることができました。
酸っぱさは最初に感じるのですが、徐々に甘さが登場して酸っぱさを包み込んでいくような味わいでした。
この料理も先に記したバター茶と同様に、特有の風味があり、好き嫌いがはっきり分かれる料理だと感じました。
この料理、おそらくヤクの乳から作られるチーズではないかと思います。
チベットではヤクや羊の乳から作られる様々なチーズがあるみたいで、どれも独特な食感や風味を有すそうですね。
このチーズも、高地の寒冷地域で暮らすチベットの人たちにとって、なくてはならない栄養価の高い食事だそうです。
4. チベットのヨーグルト
そして、最後に出てきたのが、こちらのヨーグルト。
ヤクの乳で作られたヨーグルトです。
チベットでは、古くからヤクのミルクを使ったヨーグルト作りが行われているそうで、一般家庭でも作るそうです。
搾りたてのヤクのミルクを煮沸し、冷ましてから前日に残ったヨーグルトを発酵剤として混ぜ、外に置いてゆっくりと発酵させた後、冷蔵庫で冷やして食べるとのこと。
このヨーグルトはチベット仏教とも密接に関連しています。
チベットにはショトン祭り(Sho Dun Festival)、別名ヨーグルト祭りがあります。
これは僧侶たちが、夏の瞑想期間が終わったことを祝う祭りです。
仏教の戒律に則り、僧侶たちは夏の間、外出して殺生を避けるために外界から離れて寺院内で静かに修行に励みます。
6月が終わると、僧侶たちは修行を終え、山から降りてきます。
この時、地域の人々が彼らの修行を讃え、ヨーグルトを振る舞って慰労する習慣があります。
これがショトン(Sho Dun - 雪顿)の由来だそうです。
なお、Sho(雪)はチベット語でヨーグルト、Dun(顿)は宴会を意味するとのことです。
味わいに関しては、このヨーグルトはクリーミーで滑らかな舌触りが特徴的です。
独特な酸味がありながらも、どこか爽やかな風味が感じられます。
後味には、自然な甘みも若干感じられました。
私はこのヨーグルトをおいしくいただきました。
チベット料理に対する感想
今回私は、チベット料理を人生で初めて食しました。
シャパレを除いて、どれも日本では味わうことのない独特な味を有しており、人によって好き嫌いが分かれるかもしれないと思いました。
私にとっては特に問題はありませんでしたが、感動するほどおいしかったかと言われると、正直そうではなかったです。
ただこれも、食文化を学ぶ一環として貴重な経験であり、機会があれば是非チベット現地で、本場のチベット料理を味わってみたいと思いました。
ちなみに、チベットを2度訪れた友人によると、このレストランの料理はチベットで食べた料理よりも美味しかったとのことです。
チベット僧侶に出会う
お腹もいっぱいになった後、私たちはレストランを出て、元来た道を戻り始めました。
すると、周囲にチベットの僧侶らしき人々がたくさんいるような・・・。
お~、やはりチベットのお坊さんたちの集団ですね。
レストランに入る前はそれほど多くは見かけませんでしたが、この時間帯には赤い僧衣を着た多くのチベット仏教の僧侶たちが、露店で何かを物色している様子が見受けられました。
どうやら彼らは、数珠や他の仏教用具を眺めているようでした。
まさか成都で、これほど多くのチベット仏教の僧侶に遭遇するとは思ってもみませんでした。
彼らがゆっくりと買い物を楽しんでいる姿を見て、その穏やかな光景に心が和みました。
あとがき
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました!
今回は、四川省の華やかな大都市、成都市に隠された、中華とは一線を画す異国情緒溢れる世界を紹介しました。
四川省の西側、チベットと接する地域に位置するカンゼ・チベット自治州には多くのチベット族の人たちが住んでいると以前から耳にしていましたが、成都市内にもチベット文化が色濃く存在する地区があるとは、初めての発見でした。
チベット人街に足を踏み入れた瞬間、まるでチベットそのものに迷い込んだような感覚に陥り、とてもワクワクさせられました。
皆さんが四川省成都市を訪れる機会があれば、ぜひチベット人街に立ち寄って、その魅力を肌で感じてみてくださいね!
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