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モンゴルの国宝、深みと歴史を持つ魅惑的な弦楽器の世界 |モリンホール

Photo by Pexels

さて、突然で恐縮ですが、上の画像に写っている楽器をご存じでしょうか?

こちら「モリンホール(Morin khuur)」と呼ばれる楽器でして、日本では馬頭琴(ばとうきん)ともいいます。

モンゴル起源の弦楽器でして、ユネスコの無形文化遺産にも登録されております。

その名の通り、楽器の先端は馬の頭を模していて、これが大きな特徴となっています。

先端が馬を模している
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モリンホールの音色は深く重厚で、モンゴルの草原を思わせるような豊かさがあります。その音色はまるで馬の鳴き声を奏でているかのようで、聞く人々を魅了します。

元々はモンゴルの遊牧民が亡くなった愛馬を偲ぶために作られた楽器と言われておりまして、馬の骨や毛を使用しているそうです。

この楽器には長い歴史がありまして、チンギス・ハーンの時代にはすでに広い地域で使用されていたとのことです。

馬頭琴は独奏、民謡の伴奏、合奏など、様々な場面で使われています。

後述しますが、モンゴルの伝統や精神を色濃く反映したこの楽器は、中国や他地域の音楽にも影響を与えています。

今回はモンゴルの国宝である楽器「モリンホール」を紹介いたします。

*モリンホールのモリンはモンゴル語で馬を表し、ホールは楽器を示す。潮尔(Chao Er)ともいう

モリンホールの構造

モリンホール
著作者:Michael Coghlan, CC BY-SA 2.0

File:Mongolian horsehair-horsehead fiddles WOMADelaide festival Adelaide AUSTRALIA March 2012.jpg - Wikimedia Commons

モリンホールは基本的に、馬の形をした棹(さお)、台形の共鳴箱と二本の弦からなり立っています。

特徴的なのは、馬を模した棹ですが、過去には馬の頭だけでなく、ドクロやワニの頭など、さまざまな形に模したものが先端についていたらしいです。

弦はナイロンか、馬の尾毛でできていて、馬の頭を模したペグにつながっています。

弓は馬の毛で作られていて、弦との摩擦を抑制するために、松や杉の樹脂でコーティングされているそうです。

共鳴箱の形は基本的には台形ですが、稀に六角形や八角形をしたものも存在するそうです。

共鳴箱の表面は伝統的なものだと馬や牛、羊などの皮が使用され覆われているそうなのですが、最近では木製のものも増えてきているとのことです。

中国の内蒙古自治区ではエゾマツやシロマツなどの松材を用いるらしいですが、モンゴルではシラカバを使用するそうです。

ナイロン弦は耐久性が非常に高く、適切なメンテナンスを施せば約2年は使うことができるとのことです。

なお、モリンホールのサイズや形は地域によって差異性が見られるそうです。

モリンホールの起源に纏わる伝承について

モリンホールの起源に関連した伝承は多く存在します。

その中でも特にモンゴル、また中国の内蒙古自治区で非常に有名な2つの伝承を紹介します。

クク・ナムジルの物語(The Tale of Khukhuu Namjil)

一つ目はクク・ナムジル(Khukhuu Namjil)という、ある牧夫の物語となります。

主人公のナムジル(Namjil)はある日、恋人から魔法の翼を持つ馬をプレゼントされます。ナムジルはその馬に跨り、夜な夜なその恋人の元へ飛んで行っていたそうです。

しかしナムジルには妻がおりまして、その妻に馬の秘密がばれてしまいます。

挙句の果てにナムジルは妻の怒りを買って、馬の翼は切り取られてしまい、馬は亡くなってしまいます。

ナムジルは絶望してしまいますが、夢の中でその馬に再び出会います。

そして、その亡くなった馬の体の一部を使い、楽器を作ることを思いつきます。

悲嘆に暮れるナムジルは失った馬を偲び、その皮と尾の毛を使って楽器を作り、哀愁漂う旋律を奏でたそうです。

その楽器こそが、モリンホールとのことです。

スーホの白い馬

もう一つの伝承は、日本でも国語の教科書に載っている「スーホの白い馬」です。

羊飼いの少年スーホは、苦しみながらもがいている白い子馬を見つけ、連れ帰って大切に育てました。

白馬はすくすくと成長し、ある日地元の殿様が開催した競馬大会に出場。

その大会で優勝したものの、馬を気に入った殿様に強引に奪われてしまいます。

白い馬はスーホの元へ戻ろうと逃げ出しますが、殿様の家来によって矢で重傷を負います。

スーホの元に辿り着いたときには既に瀕死の状態。翌日、白馬は息を引き取ってしまいました。

悲しみに暮れるスーホでしたが、ある晩、夢の中で白馬に再会します。

白馬からは夢の中で、「私の体で楽器を作り、一緒にいてほしい」と伝えられます。

目を覚ましたスーホは、白馬の言葉を思い出し、馬の皮や骨を使って楽器を作り始めます。

完成した楽器で、スーホは夜ごとに白馬を偲んで歌を歌ったそうです。

このスーホが作った楽器こそがモリンホールとのことです。

馬を愛するモンゴルの人たち

その他にも、ゴビ砂漠で生活するある牧畜者が、風が吹くと馬の毛がこすれ合い音を出す現象に気づく。彼はこの現象に感銘を受け、自らその音を出す楽器を作り上げ、歌を歌いながら演奏するようになるといった伝承も存在します。

いずれにせよこれらの伝承から、モンゴルの人たちが馬を非常に大切にしていることが分かりますね。

モリンホールに似た楽器

モンゴルの西側、また中国国内の新疆地区のモンゴル族の人たちはイケル(Igil)と呼ばれる楽器をよく奏でるそうです。形はモリンホールとそっくりなのですが、棹が馬の形でないものがあったり、共鳴箱の形が洋梨形だったりいくつか相違点が見られます。

これがモリンホールの元になったのではないかとも言われているそうです。

イケルの画像、共鳴箱の形がモリンホールと違う
著作者:Jeanbubley, パブリック・ドメイン

File:Igil oktober saya front view.gif - Wikimedia Commons

なおこのイケル呼ばれる楽器ですが、モンゴルの北西に位置するロシア連邦のトゥヴァ共和国では「イギル」と呼ばれているそうです。

トゥヴァ共和国の位置(赤枠)

そして、モンゴルや中国の隣国であるカザフスタンやキルギスも同様に、馬の毛で作られた楽器を使用する文化があります。

例えば、カザフスタンではコブズ(Kobyz)、キルギスではクル・クヤック(Kyl-kyyak)といった、モリンホールと類似の楽器が存在します。

カザフスタンのコブズ、弦は馬の毛を使用する
著作者:Frank Kovalchek, CC BY 2.0

File:Musical instruments on display at the MIM (14351816715).jpg - Wikimedia Commons

キルギスのクル・クヤック
添付画像はキルギスタン時代の切手、これも弦に馬の毛を使用する。
著作者: Post of Kyrgyzstan, パブリック・ドメイン

File:Stamps of Kyrgyzstan, 2011-36.jpg - Wikimedia Commons

また更に遠くまで足を伸ばすと、東ヨーロッパ(セルビアやクロアチア、アルバニアなど)にもグスル(Gusle)、またはラフタ(Lahuta)と呼ばれる類似の楽器が存在します。

セルビアのグスルという楽器
著作者:Ninam~commonswiki , CC BY-SA 3.0

File:Serbian Gusle.jpg - Wikimedia Commons

モンテネグロのグスルの棹。馬ではなくヤギの形をしている。
著作者:Orjen, CC BY-SA 4.0

File:Gusle Montenegro 2.JPG - Wikimedia Commons

これら東欧の類似楽器はしばしば棹が馬ではなく、ヤギの頭を模していることが多いようです。

ラクダの飼育で使用されるモリンホール

さてこのモリンホールですが、ゴビ砂漠に居住する遊牧民は音楽を奏でる以外に、ラクダの飼育にも使用するそうです。

ゴビ砂漠の位置(赤枠)

母ラクダが産んだばかりの子ラクダを、さまざまな自然界のストレスによって拒絶してしまうことがあるらしい。

この問題に対処するため、モンゴルの遊牧民はモリンホールを活用するみたいです。

特別な低音波を発生させる「ホースロー」(Khoosloh)というテクニックを用いて、母ラクダの心を癒し、子ラクダを受け入れるよう促すとのことです。

このように、音を活用した家畜の飼育は世界中の異なる遊牧民でも一般的に見られる習慣だそうですが、ゴビ砂漠に住む遊牧民たちは、この技術をラクダにのみ使用しているとのことです。

また母ラクダが出産後に亡くなった場合でも、遊牧民たちはこのモリンホールのメロディとホースローのテクニックを利用し、他の母ラクダに新しい子ラクダを受け入れさせるようなこともしているそうです。

モリンホールを活用した音楽

最後にモリンホールを活用した楽曲を3つ紹介します。

1. ウランバートルの夜(乌兰巴托的夜)

www.youtube.com

ウランバートルの夜(乌兰巴托的夜)はモンゴルの民謡です。

中国でも色んなバージョンにカバーされていて有名です。

2. 安和橋(安和桥)

www.youtube.com

中国のフォークシンガーである宋冬野(Song Dong Ye)が2013年にリリースした曲「安和橋(安和桥)」は中国国内で非常に人気のある曲です。

その曲の間奏やサビの部分に、モリンホールが使用されています。

この動画は、その間奏部分をカバーしたものになります。

3. 夢の中の母(梦中的额吉)

www.youtube.com

元々モンゴルの曲でしたが、2007~2012年頃に中国でかなりヒットしました。

特に2011年、当時12歳だった中国の内モンゴル自治区のある少年が、中国のタレントショーでこの曲を歌い、感動を呼んだことで有名です。

この動画の馬頭琴の旋律が美しかったので掲載しました(フルバージョンを掲載したかったのですが、いくら探しても見つかりませんでした・・)

心が落ち着く音色、モリンホール

深く重厚で、神秘的な雰囲気を創り出す
著作者:Mizu basyo, CC BY-SA 3.0

File:Morin Khuur, South Mongolian Style.jpg - Wikimedia Commons

今回はモンゴルの民族楽器であるモリンホールという楽器を紹介しました。

楽器の音色ですが、なんとも言えない深みと響きがあり、ちょっと神秘的で、またどこか懐かしい感じがして、聴いていると心が落ち着きました。

You Tube上には他にもたくさんモリンホールを使用した楽曲がありますので、興味をお持ちになられましたら是非ご覧ください。

モンゴルの歴史や文化を感じながら、心が穏やかになる。そんな素敵な時間を過ごせるはずですよ。

 

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*参考文献:

马头琴(蒙古族乐器)_百度百科

アジアの楽器図鑑

民族楽器

モリンホール - Wikipedia

Morin khuur - Wikipedia

Kobyz - Wikipedia